そんな顔をするな
「なんて面してんだ」涙で濡れた私の顔を見て、ウタカタ様が心底嫌そうな顔をした。そんなに嫌なら、見なければいいのに。
体育座りでうずくまって、そんな私の顔を無理矢理上げたのはウタカタ様。顔を反らそうともがく私の頬を両手で押さえて、眉間に皺を寄せながらじっと見つめる。
「離して、ください」
「なんで泣いてる」
「なんでもいいじゃないですか」
「じゃあ質問を変える。どうして泣き止まない?」
「…………」
流しても流してもあふれてくる涙。どうして止まらないかなんて、そんなのこっちが知りたい。黙り込んでいる私に一掃皺を寄せたあと、頬を挟んでいた手を離して、代わりに着物の袖で私の顔をゴシゴシと擦り始めた。
「痛い!痛いです、ウタカタ様!」
「なんだ、わざわざ拭いてやったのに」
「慰めるなら、もう少し優しくしてくださいよ。抱きしめるとか、頭を撫でるとか」
「そんなのは性に合わない」
顔を覆う水色の布と、ウタカタ様のぶっきらぼうな優しさに、止まらなかった涙が引いていく。その様子に気づいたウタカタ様が、眉間の皺をといて、ほっとしたように腕を顔から離した。
「やっと泣き止んだか」
「もう、あんなに強く擦られたら、顔が真っ赤になっちゃいますよ」
「お前が泣くからだろう」
「……ありがとうございます、ウタカタ様」
「礼を言われる覚えはない。オレはただ自分が嫌だっただけだ。お前の泣き顔は、どうも苦手だ。2度とそんな顔をするな」
言うだけ言って、さっさと立ち去るウタカタ様の後を追う。
ほんとうは知ってます。なかなか家に帰らない私を心配して、砦中探してくれたことも。袖で顔を拭きながら、頭を撫でようと手を伸ばしてくれたことも。
「やっぱり私、ウタカタ様の弟子になりたいです」
「勘弁してくれ。すぐ泣く女は苦手だ」
月明かりの下、斑に濡れた袖が、愛しい。