……逆らうつもりか?
「嫌!ぜったいに嫌です!」「ホタル。いい加減にしろ」
「い・や・で・す!どうてもと言うなら、粉じゃなくて錠剤を持ってきてください!」
額には冷えピタ。顎には耳から吊り下がったマスク。厚い布団の中に横たわるホタルは、どこから見ても立派な病人。
「ホタル。この薬はとても苦いが、そのかわり効き目がすごく早くてな。飲んで一晩ゆっくり休めば、どんな風邪だってすぐに治るんだ」
「そんなこと言っても、苦いのは嫌です!」
布団を頭から被り、これ以上の会話を拒否しやがったホタル。いっこうに前に進まない状況にため息をつき、仕方なしに薬を畳に置いてホタルを見据える。あまり使いたくはないが、こうなったら最終手段だ。
「師匠に……逆らうつもりか?」
「……………」
「……ホタル、これ以上わがままを言うなら破門だぞ」
「っ——!そんな!」
「当たり前だろう。師匠の言うことを聞かないやつを、弟子と認めるわけにいかないだろう」
「ウタカタ様……」
「今すぐ薬を飲めば、許してやる。ホタル」
「っ……!」
慌てて布団から飛び出して、あれほど嫌がっていた薬を水もなしに一気に飲み込むホタル。噎せながらも泣きながらオレにしがみつき、必死に許しを乞うた。
「ウタカタ様、嫌です、破門だなんて…」
「ホタル、苦くないのか?」
「苦いです。でも、破門に比べれば、こんなの…」
「……ホタル」
ホタルに水を差し出し、普段より熱い体をぎゅっと抱きしめた。まさか泣くとは思っていなかった。薬を飲んでもらうためとはいえ、少々酷だったか。
「ちゃんと薬を飲んだんだな。偉いぞ」
「ウタカタ様、破門は……」
「今日は早く寝ろ。元気にならないと、修業も始められないだろう」
「ウタカタ様……!」
オレの一言で、こんなにもころころと表情を変えるホタル。この愛らしさを前にしたら、オレは一生、冷徹になんてなれないだろう。