いくつかの未来
「ホタル」
名前を呼ばれた瞬間、思考が止まった。聞こえた声は、ずっと聞きたかった声。ずっと、思い出していた声。
「ウタ、カタ……、様」
幽霊にしては鮮明すぎるその容姿。固まっている私に1歩近づき、ウタカタ様は優しく微笑んだ。
「待たせたな」
肩に手を置かれ、ゆっくりと抱き寄せられた。涙と共に、溢れる言葉。
「待ちくたびれました、ウタカタ様」
「悪い。いろいろ手こずってな……」
「もう、会えないと思ってました……」
「……オレもだよ」
指先で涙を拭かれ、唇が重なる。ウタカタ様の感触が、確かにした。
「尾獣を抜かれて、もう駄目だと思ったんだ。でも、師匠と……ホタル、お前のお陰で助かった」
「私の?」
「師匠がオレに施した封印と、土蜘蛛の禁術がオレを救ったんだ」
強く強く抱きしめられて、喜びを全身で噛み締める。生きている、ウタカタ様は、ここに生きている。
「ありがとう、ホタル。お前に出会えて本当に良かった」
「私も、ウタカタ様に出会えて良かったです」
「随分と予定が狂ったが……また、旅に出掛けるか」
「はい、ウタカタ師匠!」
(全ては純乎たるホタル様の眼を欺く為だけに)