遊園地の姫君
※現代パロ
「ウタカタさーん!見てますかー?」
「おー」
「ちゃんと写真撮ってくださいねー!」
「おー」
ファンタジックな音楽と共に回る馬に跨がり、ホタルは楽しそうにこちらに手を振っていた。周りは皆、子どもばかり。見てるこっちが恥ずかしくなる状況にため息をつきながら、デジカメのシャッターをホタルに向けて切った。
「ああー楽しかった!なんだかお姫様になった気分でした!」
「そりゃあ良かったな」
「ウタカタさんも乗れば良かったのに」
「勘弁してくれ。あんな女々しい乗り物」
「あ、次はアレに乗りましょう!」
商店街の福引きで、運良く当たった遊園地のチケット。誰かに譲ろうとするオレに、キラキラ目を輝かせながら行きたいと言ったホタルは、今の状況を見ても本当に遊園地が楽しいのだろう。
連休明けの平日で多少は空いてるものの、場所は人気のテーマパーク。人混みに酔いながらも、にこにこと笑うホタルに腕を引かれ、次のアトラクションへと並ぶ。
「えへへ、コーヒーカップなんて何年ぶりだろう」
「コーヒーカップ?」
「ウタカタさん、コーヒーカップに乗ったことないんですか?」
「ああ。あまりこういう場所には来ないからな、昔から」
係員に案内され、カラフルな彩りのコーヒーカップへと向かいあって座る。何やらホタルが真ん中のハンドルを持って意気込んでいるが、一体これはなんなのだろう。
「それでは……ウタカタさん、行きますよ!」
ブザー音と共にに、ホタルが勢いよくハンドルを回した。体が右に傾き、髪が口に入らん勢いで顔にかかる。
「ほ、ホタル……止めろ……!」
「きゃー!早ーい!!」
右へ左へと揺さ振られる体と、くるくる回る景色に、胃から良からぬものが込み上げてきた。思わず手で口を押さえ、動きが止むのをじっと待つ。
「はあー、楽しかったですね!ウタカタさ、ん!?だ、大丈夫ですか!?」
「ホタル……助けてくれ……」
ホタルに支えられ、よろよろとコーヒーカップをあとにする。空いていたベンチに腰掛け、ホタルに背中をさすってもらいながら、どうにか呼吸を整えた。
「すみません……調子に乗って回しすぎました……」
「大丈夫だ……うっ…」
「ウタカタさん……」
「はあ……ホタル、しばらくもたれてもいいか?」
「はい」
ホタルの肩に頭を預け、目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。わざわざ遠出してこんな状態になるなんて、我ながら情けない。心配そうな顔で見つめるホタルに申し訳ないと思いながらも、頬を伝わる温度に安堵する。
「ウタカタさん、大丈夫ですか?」
「ああ、だいぶ楽になった」
「すみません、私のせいで……」
「気にするな。それより、次はもっとゆっくりしたのに乗らないか?メリーゴーランドは嫌だが」
「それなら、いいのがありますよ!」
立ち上がったホタルと手を繋ぎ、人混みをくぐり抜けて前へと進む。途中でホタルとペアのストラップを買い、たわいもない話をしていると、ホタルが空を見上げて歓声をあげた。
「ここですよ、ウタカタさん」
この遊園地の名物。木ノ葉随一の大きさを誇る大観覧車。その前に並ぶ客も、心なしかカップルが多い気がする。
「これなら、ウタカタさんも平気でしょう?」
「ああ」
「さ、早く並びましょう!」
ゆったりと回る観覧車は、他の乗り物よりも待ち時間が長い。その間にさっき買ったストラップを付けようとすると、ホタルが慌てた声で携帯を奪った。
「だめですよ!こんなところで付けちゃ」
「なんでだよ」
「……も、もう少し待ってください。観覧車に乗るまで……」
携帯を握りしめながら顔を背けるホタルに顔をしかめながら、仕方なくストラップをしまい自分たちの番を待った。その間もホタルはオレの携帯を握り、何気ない会話をしながらチラチラとオレの顔を伺っていた。
「足元にお気をつけください」
係員が扉を開き、ホタルに続いて丸いゴンドラの中に入る。先に腰掛けたホタルの隣に座りながら、だんだんと離れていく地面を見つめた。
「う、ウタカタさん……」
「ん?」
「これ、お返しします」
相変わらずよそよそしい態度で話すホタルの手から、奪われていた携帯を受け取る。ずっと握られていたせいか、ホタルの熱が移ってほんのり温かい。
「もういいのか?これ付けても」
「はい……」
取り出したストラップを携帯の穴に通すと、隣でホタルも同じようにして自分の携帯にそれを付けていた。青色と桃色のラインストーンで縁取られた、合わせるとハート型が出来上がる恋人仕様のストラップ。付け終えると、ホタルは嬉しそうに微笑み、目の前にそれを掲げた。
「おまじないだったんです」
「おまじない?」
「観覧車の中でこのストラップを付けたカップルは、一生一緒にいられるっていう」
「……ガキか」
「ガキでいいですよ!」
「そんなことしなくたって、オレたちはずっと一緒だろう」
「ウタカタさん……」
擦り寄るようにくっついてきたホタルを抱きしめ、額にそっとキスを落とした。いつの間にか空が近くなっている。頂上まで、あと少し。
「ウタカタさん、あのおまじないには続きがあるんですけど……」
「続き?」
「ストラップを付け終えたあと、頂上でキスをするんです。お互いを想いながら」
「……ますます在り来りだな」
「……あの、」
「わかってる。まじないどうこうは興味ないが、やっと2人きりになれたんだ。いくらでもしてやるよ」
ホタルの顎を手で押さえ、ゆっくりと唇を押しつけた。柔らかい弾力を感じながら、目を閉じ、舌を入れる。
「ウタカタさ、ん……」
「ホタル、まだ足りない」
「……頂上過ぎてるじゃないですか」
「知るか」
「んんっ……」