Cherish 儚き君へ

 退屈な人生だった。なんのために生きているかなんてわからない。ただ気の向くままに進み、本能のまま眠るだけだった。
 どれだけ尽くしても、人は簡単に裏切るもの。
 里のためとこの身を犠牲にしても、残ったのは忌み嫌われる枷だけ。唯一信じられた師匠でさえ、 六尾あいつごとオレを消そうとした。
 信じるものも、守るものも、何も無い。殺されるのは癪だからと逃げていても、実際いつ死んでも構わなかった。どうせ何も残らない。

「ウタ、カタ……様」

 そう思ってたんだよ。死ぬのなんて怖くなかった。消えるのならそれで良かった。なのにどうして、今はこんなに生きていたいんだ。もうどこにも、助かる術は残っていないというのに。

「ホタル……」

 必死に手を伸ばして、ホタルの指先に触れた。これでどうなるという訳ではない。でも、手を伸ばさずにはいられなかった。もうこれが最期だというのなら、せめて一緒に消えていきたい。


 傷だらけの身体。
 荒く途切れた呼吸。

 脳裏を走るのはいつかの走馬灯。


「私を弟子にしてください!」


 うざったい女だった


「ウタカタ師匠の……バカー!!」


 何度も呼ぶなと言ったのに


「今さら悪ぶっても無駄です」


 どうしてこんなに心が疼くんだ


「ウタカタ様」


 もう誰も信じないと決めたのに


「ウタカタ様には、隠したくなかった」


 守りたいと思ってしまう



 触れた指先は温かく、なぜか頬を雫が伝った。


 もしもホタルと出会えなければ
 きっとこんな気持ちは知らなかった
 笑うことも忘れ
 ただ孤独に身を預けるだけだった


「「……ありがとう」」


 2人同時に零れた言葉は、泡沫の恋を永遠の愛へと変える。

 儚き名前を背負った2人は、幸せになれるのだろうか。いつかまた出会えたら、今度こそ君に伝えよう。逃げ続けた愛情を、教えてくれた君に。