金糸雀色の宝石箱を閉じた
箱入り娘のお嬢様とはよく言ったものだ。一人前に気は強いくせに、1人では何も出来ない。毎度のことだが、料理の腕だけは上がってほしいものだ。「ウタカタ様!今日は焼魚ですよ」
満面の笑みで差し出されても、そこにあるのは黒い塊。どこが魚なのか問いたくなる。けれど、こいつの表情を見ればそんなことは聞けない。
「たくさん食べてくださいね。まだまだありますから」
こいつと旅をするようになって、色々気がついたことがある。ホタルは、世界を知らなすぎる。今まで砦で過ごしてきたからだろうか。狩りの仕方も、野宿の仕方もわからない。泳いでいる魚は初めて見たらしく、どうして水の中で息ができるのか何度も尋ねられた。
「あれ……?この魚、全然美味しくない……」
黒焦げの魚を一口かじり、渋い顔をするホタル。当たり前だろと言いたいが、そんな表情も可愛らしいと思ってしまう自分がいる。
「しょうがないな。オレがもう1回釣ってくるよ」
「だめです!師匠の世話は、弟子がするもの……。ウタカタ様は座っていてください!」
「お前の世話は逆に疲れるんだよ」
必死にオレを止めようとするホタルを他所に、さっきまで釣りをしていた川原に行く。もう辺りは真っ暗で、近くにいるホタルを確認するのがやっとだった。
「ウタカタ様!待って……」
オレの腕を掴んだホタルの声が止まる。視線の先は2人一緒だった。
さらさらと流れる水の周りに、無数の小さな光。やんわりと優しい灯りを瞬かせながら、ゆらゆらと飛んでいる。
「綺麗……。ウタカタ様、あれは何ですか?」
「蛍だよ」
「蛍?」
自分と同じ名前の光る物体に、ホタルは目を丸くさせた。そうか、こいつは蛍も見たことがなかったんだな。
「昆虫だよ。綺麗な水辺にだけ現れる、夏の虫だ」
「へぇ……。蛍、かぁ」
手を伸ばして捕まえた1匹を、ホタルの掌へ渡す。ぼんやりとホタルの顔が黄色い光に包まれ、小さな歓声が漏れた。
「綺麗ですね、本当に」
「そうだな」
「私、虫は苦手ですけど、蛍は平気かも」
笑顔になるホタルに、こっちまで嬉しくなる。なんてことのない、見慣れた昆虫だ。それでも、それがどんなに綺麗で大切なものか、ホタルは教えてくれる。ホタルのおかげで、オレはたくさんの幸せを知った。
「ほら、ウタカタ様」
ああ、オレはどうしようもないくらい、ホタルが好きなんだな。