麗しい処女のための棺桶

 気づいた頃にはもう遅かった。オレがいくらホタルを拒否しようとも、ホタルを遠ざけようとしても、全てが意味のないことだった。
 あいつは、ホタルは……オレと同じだった。里のために犠牲にされ、師匠に裏切られ、そして、

 里から、逃げ出した。

「ウタカタ様……?さっきから黙って、どうしたのですか?」
「いや……」

 禁術を封印されたホタル。
 尾獣を封印されたオレ。

 ホタルに惹かれるのは、境遇が似ているからなのか?この気持ちはただの同情なのか?
 握っていた手を離して、ボロボロになったホタルを振り返る。追われる者同士、どこまで逃げきれるのだろう。オレたちを狙うものは、決して少なくはない。

「ホタル」

 いつから愛しくなったのか。
 いつから名前で呼ぶようになったのか。
 いつから離したくなくなったのか。

 抱きしめて伝わる体温は、いつまで保たれるのか。チャクラも切れ、立っているのも辛くなってきた。それはホタルも同じらしく、オレにもたれかかるようにして、辛うじて身体を支えていた。

「ホタル」
「ウタカタ、様」
「悪いな」
「……大丈夫です。ウタカタ様が、傍にいるから」

 霞んできた瞳に、笑ったホタルの顔が映る。ポタポタと霧雨が降ってきた。もう長くはない。最後の口付けをして、終わりにしよう。



(誰かに狩られるくらいなら、この手で)