純情子羊

「ウタカタ様、落ち着いてください!」
「オレは落ち着いている」
「嘘です!目つきなんて獣のようですし」
「そう言うな」

 壁に追いつめられて、逃げ場はどこにもない。こんなことなら、水遁の術だけじゃなくて、変わり身の術も教わっておくべきだった。

「ホタル」
「は、はい」
「何を考えているんだ」

 ウタカタ様の手が私の髪を耳にかける。広くなった頬に口づけられて、至近距離のまま続けられる会話。

「オレのことだけ考えろ」

 ウタカタ様の吐息が感じられる。だめ、ウタカタ様のことなんて考えられない。恥ずかしくて何も考えられない。

「ホタル」
「ちか、いです。ウタカタ様」
「……オレはまだ遠く感じる」

 だんだんと近づいてくる唇に、思考がショートしてしまいそう。目をぎゅっとつぶり、触れる感触にひたすら耐える。でも、なかなか離れてくれなくて。

「ん……!」

 よくわからない温かいもの。これはウタカタ様の舌?一体何が起こっているの。こんなの、知らない。

「ウタカタ様……」
「安心しろ、全部オレが教えてやるから」

 そう言って私を押し倒したウタカタ様は、やっぱり獣だった。


(にやりと笑った狼は、可愛い子羊を丸呑みにしてしまいましたとさ)