可愛いあの人
ウタカタ様の様子がおかしい。普段ならこんなこと、絶対ないのに。しっかりと繋がれた手に、緊張が走る。
「ウ、ウタカタ様?」
「なんだ」
「……いえ、何でもないです」
目も合わさずぶっきらぼうに答えられた返事が痛い。ウタカタ様が、自分から手を繋いでくるなんて。嬉しい、嬉しいんだけど、なんだか雰囲気がおかしい。繋がれた手とは正反対に、黒いオーラがウタカタ様を包む。
「何か、ありましたか?」
「……やっぱり自覚はないか…………」
「え?」
呆れたような目付きで見られ、盛大に吐かれたため息。どうしようか迷っていたら、顎を掴まれて目を無理矢理合わされる。
「お前の師匠は誰だ」
「う……ウタカタ様、です」
「だったら、よそ見すんじゃねぇ」
すごい剣幕で怒られているのに、繋いだ手は相変わらずで。小さな声で返事をすれば、舌打ちのあとに漏れるウタカタ様の本音。
「お前はうろちょろしすぎなんだよ」
もしかして。もしかして、これはウタカタ様のヤチモチですか?自惚れかもしれないけど、耳の赤さは、いつもより濃くて。
「私は、ウタカタ様だけが好きですよ」
「―――!!」
試しに素直になってみれば、驚いたようにこちらを見る。ああ、やっぱり。私の勘は当たっていたみたい。
(ヤキモチなんて、妬く必要ないのに)