瞬間、ストロボ

 小さな屋台で買った、古いカメラ。巻き取り式で、フィルムもちょっとしか入ってなくて。けれど、どうしても欲しかった。ゆっくりぜんまいを巻き、カメラの古びたレンズを、ウタカタ様に向ける。

カシャッ

 気持ちのいいシャッター音に、振り向くウタカタ様。レンズの先に見えた横顔、ちょっとブレてしまったかしら。

「何をやっているんだ、ホタル」
「ちょっと写真を……」
「忍がむやみやたらに写真を残すな。今すぐカメラを捨ててこい」

 取り上げられそうになったカメラを両腕で隠して守る。眉を寄せるウタカタ様を睨んで、精一杯の反抗。

「嫌です。やっと買えたんだから」
「だからってなぁ……」
「写真は絶対に流出しないようにしますから!だから……私はウタカタ様と……」

 ウタカタ様と、ツーショットが撮りたい。なんて言ったら、きっとまた怒られてしまうんだろう。でも私はそのために、少ないお金をさらに少なくしてまでカメラを買ったんだから。

「どうせオレと写真を撮りたいだとか、そんなところだろ」
「――!どうしてわかったんですか?」
「お前の考えていることなんて、いつでもお見通しだ」
「さすがウタカタ様!人の心が読めるなんて……!」
「ホタル限定だけどな。……ほら、貸してみろ」

 カメラを奪われ、響くシャッター音。いきなり録られた写真に、慌ててウタカタ様に飛びつく。

「な、急に撮らないでください!!」
「ホタルだってさっき撮っただろ」
「それは……ちゃんと撮れるか、試し撮りで……」
「嘘が顔にでている。そんな言い訳するなら、一緒に写真撮ってやらないぞ」
「――!?ごめんなさい!それだけは……」
「じゃあ、もっとこっちに来い」

 肩を抱かれて、近づくウタカタ様の頭。身長が合わなくて、ウタカタ様がちょっとしゃがむ形になる。近くに感じる呼吸に、赤くなる頬。

「ん……、もっと近づけ。これじゃカメラに入らない」
「は、はい」
「よし……。じゃあ撮るぞ」

 掲げられたカメラより、私の視線はウタカタ様に向いてしまって。鳴り響いたシャッター音に、慌てて顔をカメラに向けた。

「これで満足か?」
「待ってください!もう1枚だけ……」
「まだ撮るのか?」
「さっきのは、ちょっと目を瞑っちゃって……」

 フィルムに残る2人の姿より鮮明に、脳裏に焼き付くウタカタ様の姿。渋々と言った様子でまたカメラを掲げるウタカタ様の姿に、心臓のシャッターがどきりと鳴った。