反比例の恋愛公式

 弟子は師匠の言いつけを守り、決してそれに歯向かわぬもの。だって弟子は師匠の教えを乞い、師匠の様な人間になりたいから弟子になったんだもの。だから、師匠に迷惑をかけるわけにはいかない。師匠の足を引っ張る弟子なんて、あってはならない、ならなかったのに。

「お前は馬鹿か!!」

 大声で怒鳴られて、思わず体が縮こまる。ウタカタ様がお風呂に入っている間に、盗賊が襲ってきて……私は師匠を守りたかった。師匠の役に立ちたかった。だから敢えて1人で、敵に立ち向かって……。
 聞こえはいいけど、結果はボロボロ。危機一髪のところでウタカタ様が助けてくれたから、今こうして生きているのだけど、あと少し遅かったら……私はここに、いなかったかもしれない。

「どうしてオレを呼ばなかった」
「……師匠に迷惑をかけたくなくて……」
「入浴中に呼ばれるより、今こうしてお前に説教するほうが、オレにとっては迷惑な話だけどな」
「……すみません……」

 どうして、いつも空回りばかり。正座をして俯いて、どんなに反省を表しても足りない。師匠を、ウタカタ様を怒らしてしまった。当たり前、私が敵を止められなかったから、宿の部屋はぐちゃぐちゃ。とても休める状況じゃない。

「あの手の族は、よく毒を使うんだ。まだ慣れてないお前に、どうやって太刀打ちができる。お前はまだ実戦を交えられるほどの実力じゃない。身の程をわきまえろ」
「……おっしゃる通りです」

 自分の浅はかな行動に、悔し涙が流れてきた。ウタカタ様に見られないよう素早く拭い、これ以上泣かないように唇を噛み締める。

「本当に、申し訳ありませんでした」
「……怪我は」
「え?」
「怪我は、これだけか?」

 赤く擦りむいた腕を掴み、じっと目を見つめられる。黙ったまま頷けば、そのままウタカタ様は傷口を睨みつけて。……怒っているのかしら、あんな無茶をして、おまけに怪我までして。

「結構深いな……傷跡が残らないといいが」
「大丈夫です。そんなに痛くありませんから」
「嘘を言うな。さっき腕を掴んだとき、顔が歪んだだろ」
「…………」
「無理はするな。……今手当てをしてやるから、ちょっと待っていろ」
「大丈夫です!自分でできますから……」
「ホタル」

 これ以上ウタカタ様に迷惑をかけるわけにはいかない。そう思って言った言葉なのに、ウタカタ様の目は相変わらず厳しいまま。その顔にまた体が縮こまり、また怒鳴られるのかと、ぎゅっと目を閉じる。

「師匠に迷惑をかけないようにする気持ちは、よくわかる」
「……え?」
「だが、弟子は師匠を乞うだけじゃない。時には、自分にできないことがあれば、頼っていいんだ。師匠を頼ることを迷惑とは言わないんだよ」

 見上げたウタカタ様は、優しい顔。頭を撫でられて、「ホタルが無事で良かった」なんて言われたから、私は今まで怒られていたことも忘れて、ウタカタ様に抱きついてしまう。

「ウタカタ様っ!迷惑をかけて、本当にすみませんでしたっ」
「おい、本当に反省しているのか」
「していますよ!だからウタカタ様、これからは、もっと頼ってもいいですか?」
「……当たり前だ」


(師匠、大好きです!)(それは頼るというより、甘えているだけだろ……)