とぎれた夢をもう1度

「ウタカタ師匠、待ってください」

 背後から名前を呼ばれて、ウタカタは歩みを止めた。振り返れば、ホタルが小走りで追いかけてくるのが見える。

「何をしていたんだ」
「見たことのない鳥がいて、つい……」
「あんまりとろいと、おいていくぞ」
「あ、師匠!」

 再び歩きだしたウタカタに沿うように、ホタルも歩き始めた。葛城山の砦を出て、早2時間。1度は諦めていた旅が、また始まったばかりだ。嬉しそうに鼻歌を歌うホタルを横目に、ウタカタは考えていた。これからどこへ行こうかと、ホタルにどんな修業をつけてやろうかと。

「ウタカタ師匠。はじめはどこへ行くんですか?」
「そうだな……ホタルはどこへ行きたい?」
「えっと……。私、生まれてからろくに里の外へ出たことがなくて。だから、色んなところへ行きたいです。海や山、南国の島に、白銀の世界」

 指先を合わせ、ホタルは楽しげに話す。役の行者の孫娘。大切に大切に育てられてきたホタルにとって、砦から外は未知の世界。先程の鳥も、きっと世間ではなんてことのない、ありふれた種なんだろう。

「それに、師匠と一緒なら、どこへ行こうと楽しいに違いありません!」

 顔を上げ、満面の笑みで言われた台詞に、ウタカタは微笑んだ。呆れるほど真っすぐな敬慕の念に、ホタルへの愛しさが込み上げてくる。

「単純なやつだな」
「だって、待ちに待った師匠との旅ですもの」
「言っておくが、観光目的じゃないんだ。修業は今まで以上に厳しくいくぞ」
「望むところです!」

 笑顔で答えるホタルの頭をくしゃくしゃと撫で、ウタカタは歩みを少し遅くした。師匠を慕うその顔に、いつかの自分を重ねながら。