路地裏の三毛猫

 強がりな女。本当は辛いはずなのに、弱音は一切吐かなくて。
 か弱いくせに、忍術なんてほとんど使えないくせに、ホタルから助けを求めてきたことは一回もない。ツルギたちに人質に捕られたときも、「助けて」一言すら吐かなかった。

「ウタカタ様」

 そんなホタルが甘えてくるなんて、本当に珍しいんだ。腕に擦り寄り、どこか怯えた目付きでオレを見てきた。腕に纏わる細い腕には真新しい傷。まだほんの、14、15の少女。しかも世間知らずの箱入り娘。それなのに、人一倍強い心。

「ウタカタ様」
「どうした?ホタル」
「…………」
「もっとこっちに来い。今は周りに誰もいないから、特別だ」

 こちらが少し素直になってみれば、嬉しそうな笑顔と共に近づく体。柔らかい2つの感触に戸惑うが、可愛いらしい笑顔によこしまな気持ちは似合わない。猫のように顔を胸に擦りつけるホタルの頭を、そっと手で撫でた。

「ウタカタ様って、温かいんですね」
「そうか?」
「はい。こうやってくっついていると、安心します」

 もしホタルが猫なら、ゴロゴロと音が聞こえるだろう。満面の笑みで甘えられて、あまのじゃくな弟子をもったオレは大変だ。もっとも、そんなホタルが可愛くて仕方ないのだが。

「いつもこのくらい素直に甘えてくれればいいんだけどな」
「何か言いました?」
「ホタルはこうしていたほうが可愛いって、そう言ってるんだよ」