指先から伝わる
赤く血の滲んだ指先を睨んで、ウタカタ様は大きなため息をついた。眉間に寄った皺は、そのまま跡がついちゃうんじゃないかと心配になるくらい深い。「ウタカタ……さま……」
おそるおそる名前を呼んでみると、視線だけをこちらに向けられる。掴まれた左手が痛い。
「そんなに怖い顔、しないでください」
「…………」
「大丈夫、ですから」
日頃の恩返しにと、張り切って夕食作りに励み、慣れない包丁。小さな悲鳴に駆け付けたウタカタ様は、何も言わずに傷口を睨んだまま。だんだんと溢れてきた血が、痛々しさを引き立てる。
「こんなに血が出て、何が大丈夫なんだ」
「こんなの、舐めれば治ります」
「破傷風になったらどうする。刃物には気をつけろと、あれほど言っただろう」
やっとかけられた言葉は、ウタカタ様の眉間をさらに狭くする。申し訳なさに俯いていたら、指先に生温い柔らかさを感じた。
「ウタカタ様っ……!」
ウタカタ様の舌が傷口に触れて、ピリリと痛みが走る。そのまま指を口に含まれて、私は耐え切れなくなって顔をそらした。
「……血は止まったか」
「ウタカタ様……どうして……」
「舐めれば治ると言ったのはホタルだろう。あいにく絆創膏を切らしてるんだ。痛いかもしれないが、我慢しろ」
左手を解放されて、ウタカタ様は何もなかったのように放置されたままの食材に向かった。熱を持った指先が少し艶めいていて、顔が赤くなるのがわかった。
「ウタカタ様の、ばか」
「治療してやってそれはないだろう」
「治療じゃないです、こんなの」
「文句はいいから、少し手伝え。皿を運ぶくらいはできるだろう」
背中を向けたままのウタカタ様を睨んで、野菜の乗った皿を手にとった。もしウタカタ様が怪我をしたら、私だって仕返ししてやるんだから。濡れた指先を拳に隠して、ウタカタ様を振り、思い切り舌を突き出した。