微笑みアンコール
「あ、笑った」一言私が呟けば、ウタカタ様ははっとした顔をしてそっぽを向いた。髪に埋もれた耳が赤い。
何気ない午後、ウタカタ様と2人。過ごしていたら、一瞬見えた、優しい微笑み。今まで一緒にいて、笑ったところを見るのは初めて。貴重な一瞬、できればもう1度。
「ウタカタ様、もう一度笑ってください!」
「ふざけるな。オレは笑ってない」
珍しく隣に座るのを許してくれたのに、ウタカタ様は立ち上がってどこかへ行こうとする。
それだけはいや、やっと近づけたんだから。
「待ってください、ウタカタ様!」
「…………」
「もう笑わなくていいですから、せめて傍に」
「無理だ」
「っ……」
「お前といて笑わないのは……無理だ」
ちらりとこちらを向いて、一言吐き捨てて。ウタカタ様はシャボンに乗って、空へ消えてしまった。
ウタカタ様の顔が赤かったのはどうしてだろう。わからないけど、もっと傍にいたかった。
明日はウタカタ様が笑っても、黙っていよう。そうすればきっと、笑顔のまま傍にいてくれるはず。