初恋幻想曲

 ウタカタ様と、同じ日、同じ時間、同じ場所……同じ空間を見ているだけで、幸せなの。それだけで心が満たされてしまうくらい、私はウタカタ様が好き。でも、会えばやっぱり話したいし、近くにいれば触れたい。でもそんな勇気なくて、私はただウタカタ様にバレないように見つめて、それだけしかできなくて。

(お願い、今度こそ)

 勇気を振り絞って話しかけようとすれば、時間はイタズラにウタカタ様を連れ去ってしまう。2人きりに、なれないの。話しかけられないのも、勇気がないのも時間のせいにして、私は何もしていない。ただ臆病なだけ。本音を見せて、ウタカタ様に嫌われるのが、怖いだけ。
 ウタカタ様と私。ほんの一瞬、2人の時間が重なるだけで、胸が張り裂けて、熱い想いが私を包んで。

 赤い顔、バレないで。
 上ずる声、聞かないで。
 震える足、気づかないで。

 瞳に揺らぐウタカタ様が、消えそうなほど遠くて。手を伸ばしたいのに、名前を呼びたいのに、私の体は動かない。

 想い想われ、振り振られ。どちらの道を、私は辿る?「今度こそ、」何度目の決意?この恋の続きは誰にもわからないけど、でも諦めるなんて選択肢は私にはない。

「ウタカタ様」

 上ずる声で名前を呼んで、震える足を前に出して。赤い顔を隠しもせず、ウタカタ様を見つめる。

「……好き、です」

 壊れるのは、私の恋?二人の関係?それとも、臆病だった、弱虫な自分?時間よ、お願い。今だけは、2人を静かに見守っていて。たわいないイタズラは、もう十分。この想いの答えが見つかるまで、2人の時間を、ずらさないで。


(どうせ壊れる想いなら、砕け散って、この身に刻みつけたい)