HAVE A COLD

 鈍器で殴られたように、頭がズキズキと痛む。視線を動かすだけでこんなに痛むとは、よほど重症なのか。熱にうなされる額に冷たい布を感じ、閉じかけた目を再び開く。

「調子はどうですか?ウタカタ様」

 首筋の汗を拭きながら、ホタルは優しく微笑んだ。風邪なんかひくのは何年ぶりだろう。尾獣を抜かれ、里と和解し、ホタルが傍にいることへの平和ボケか。体調管理の甘さにため息がでる。

「悪いな。今日のぶんの修業はまた今度だ」
「いいですよ。今はゆっくり休んで、しっかり風邪を治してください。看病なら私がしますから」

 小さくガッツポーズを作るホタルを見て、たまには風邪をひくのも悪くないと思った。ぐわんぐわんと目眩を起こす熱はうざったいが、時折触れるホタルの指先は心地好い。

「そうだ、ウタカタ様。私、お粥を作ったんです。食欲があるなら食べませんか?」
「粥か……」

 料理の苦手なホタルが、一生懸命作ったのだろう。食欲があるわけではないが、かわいい弟子の努力の結晶。微笑んで頷けば、ホタルは嬉しそうに部屋を出ていった。

「旅館の女将さんに作り方を教わったので、味は大丈夫ですよ」
「そうか」
「はい、ウタカタ様。あーん」

 スプーンに乗せられた粥を、ホタルが笑顔で差し出す。いや、待て。さすがにそれは。

「――?ウタカタ様、どうされました?」
「いや……これはいくらなんでも……」
「……あっ、わかりました!ウタカタ様ったら猫舌だったんですね。大丈夫です。ちゃんと冷ましますから」

 唇を尖らせ息を吹きかけ、温度を確かめるために味見までしやがる。ただでさえ恥ずかしい行為に、間接キスまで混ぜてきやがった。

「はい、ウタカタ様。あーん」

 変わらない笑顔で差し出される粥に、拒否などできるはずもなく。仕方なしに小さく開いた唇に、温かい粥が流れ込み、からっぽだった胃を満たす。

「どうですか?」
「……美味しいよ。だいぶ上達したな」
「本当ですか!?良かった!おかわりもありますから、いっぱい食べて早く元気になってくださいね!」

 ちょうどいい塩加減に、食欲がなかったのが嘘のように土鍋に入っていた粥を全部たいらげだ。ホタルからもらった薬を飲み横になると、途端に眠気が襲ってくる。

「これだけ食欲があれば、明日には治るかもしれませんね」
「……ホタル」
「はい」
「手、握っててもいいか?」

 土鍋を片付けようと伸ばした手を掴み、温まった頬に触れさせる。そのまま唇を寄せて、ホタルの目を見つめた。

「……甘えん坊ですね、今日のウタカタ様は」
「甘えてない。こうしてると、落ち着くだけだ」
「ゆっくり休んでください。私はずっと、ここにいますから」
「……ありがとう、ホタル」


(甘えん坊なウタカタ様も素敵です)(だから甘えてなんてない……)