日だまりにて
「ウタカタ様、こんなところにいたんですね」上から降ってきた声に目を開ければ、顔を覗き込んだホタルが目を細めて笑った。昼寝の途中に、こうやって顔を近づけられることはよくある。始めは慌てたが、日々の習慣ともなれば自然に慣れるもの。大きな欠伸をひとつして、鈍った体をほぐすように両腕を伸ばした。
「ふああああ……」
「もう。まだお昼過ぎなのに、ウタカタ様ったら」
「しょうがないだろ。誰かさんの修業を毎日見てるせいで、疲れがたまってるんだ」
「ああ!またそうやって人のせいにして!」
ぷうっと膨らんだホタルの頬を、人差し指の先で軽くつつく。面白がるようなその仕草に、ホタルは拗ねるようにそっぽを向いた。
「私の頬で遊ばないでください!」
「そう言われてもな……。すぐ膨らむよな、ここ」
「ウタカタ様が意地悪ばかり言うからですよ」
「拗ねんなって」
「拗ねてないですっ」
唇を尖らせて首をそらす様子の、どこが拗ねていないのか。口から息を吐き出すだけの軽い笑みを浮かべたあと、ホタルのご機嫌をとるように頭を撫でる。
「悪かったよ、ホタル」
「……本当にそう思ってるんですか?」
「思ってるよ。……そうだ、ホタル。せっかく来たんだ。膝くらい貸せよ」
きょとんとするホタルに正座をさせ、逃げ出さないうちに膝に頭を乗せる。目を閉じて満足げなオレに、ホタルは再び頬を膨らませた。
「この期に及んでまだお昼寝ですか?」
「ちょうどいい枕を見つけたんだ。これは寝るしかないだろう」
「もう……」
ウタカタ様って、気づけばいつも寝てますよね。おまけに私のことを枕としか思ってないし、最低です。
憎まれ口を叩きつつも、右手でゆっくりと頭を撫でる動作はいつものこと。素直じゃないホタルに苦笑を浮かべながら、耳の横にきた手の平をそっと掴んだ。
「綺麗だな、ホタルの手は」
「え?」
「穢れを知らない、優しい手だ」
「……ウタカタ様の手だって綺麗ですよ。おまけに強くて私を包み込んでくれて、優しく温かい手の平です」
繋いだ手を頬に寄せ、オレを起こしたときと同じようににっこりと笑った。優しく温かい手の平、真っ黒に汚れたオレの手を、ホタルはそう表現する。偽善の欠片もないその笑顔に、何度救われたことだろう。
「本当、手放せないよな」
「え?」
「なんでもない。一眠りしたら、また新しい術でも教えてやるよ」
「本当ですか!?ウタカタ様、なるべく早く目を覚ましてくださいね!」
「……努力するよ」