そうしてふたりは愛を唄う
道理だとか理由だとか、そういう理性で考えられるものではない。気づけば視線で追っているし、距離が縮まれば触れたくもなる。それから口付けが始まり、終いには肌を重ねながら愛を囁く。オレは、こんなに欲張りだっただろうか?傍にいるだけ、声が聞けるだけ。そう思いながらも、身体はホタルを求め、全てを喰らい尽くそうとする。1度触れれば止まらない。オレたちが別々の個体だと言うことでさえ、もどかしく感じる。
「動物的本能、かもな」
「え?」
膝の上で本を読んでいたホタルが顔を上げる。オレの脳内を回る妄想なんて知らずに、澄んだ瞳がぱちくりと瞬きをした。
「動物がどうかしたんですか?」
「ああ。オレは、どちらかと言えば今まで植物だった」
「植物?」
「それを、ホタルが変えたんだよ。ホタルがオレを動物にした」
「私が、ウタカタ様を動物に?」
オレの言葉を復唱しながらも、ホタルが意味がわからないという風に小首を傾げた。そんな姿に笑みをこぼし、ホタルから本を取り上げて横になる。首筋から香る、甘い誘惑。
「確かに、ウタカタ様は猫みたいですよね」
「猫?」
「はい。気まぐれと言いますか、冷たいと思ったら今みたいに甘えてきたり。神出鬼没なところも似ています」
首筋に顔を埋めるオレを撫でながら、ホタルはくすくすと笑った。
「そういう意味じゃないんだが」
「じゃあ、どういう意味だったんですか?」
「そうだな」
例えば、今こうやって抱きしめているだけでも、オレは破裂してしまいそうなほどの愛おしさを抱えているということ。そしてその愛おしさを潰さないため、今すぐにでもホタルを掻き抱きたいということ。
「とりあえず、オレはホタルが好きだ」
「へっ……」
「なんだその声は」
「だって……。……不意打ちなんて卑怯です」
「お前が言うなよ」
息がかかるくらい近くで見つめあい、唇をそっと合わせてみた。一体誰が、こんな愛情表現を考えたんだろう。本能のままに動く肢体に、いつかの論理的な自分を思い出す。
「変わっちまったな。お互いに」
「でも、私はずっと幸せなままです」
そうして微笑むホタルに、また理性が溶かされていく。あの日の関係も悪くはないが、こうしてホタルに自由に触れられる今は、かけがえのない時間。そっと重ねた掌に、ホタルの睫毛が淡く震えた。