幸せになろう

 泣き叫ぶホタルに寄り添い、温もりのない手で涙を拭いたのも、もう昔のこと。暖かい日差しが、ホタルに降り注ぐ。笑いながら駆けていく姿を見て、もうオレの役目も終わりかと、少し悲しくなる。けれど、それでいいんだ。いつまでもオレに縛られる必要はない。ホタルが前に進んでいるなら、それでいい。

「ウタカタ様」

 名前を呼ばれて、俯いていた顔を上げた。黄色の花束を抱えたホタルが、泣いている。オレの名を呼んで。いつかと同じ、青空を見上げて。

(ホタル……)

 音にならない名前を呼んで、涙の跡を指で拭う。指先はホタルを通り越してしまうが、想いは伝わればいい。愛してたんだ。きっと、ずっと前から。
 目を閉じて笑ったホタルに口付け、青空を見上げる。ホタルの花束からこぼれた想いが、花びらと共にオレを包む。

(ありがとう、ホタル。向こうで、待ってる)

 さよならなんて似合わない。傍を離れるだけで、2度と会えないわけじゃない。
 目を開けたホタルと、視線が重なった気がした。最後に1度微笑んで、自分が空に吸い込まれていくのを感じる。大好きだよ、ホタル。今度会ったそのときは、永遠を誓うから。


(次に会ったら、抱き締め合って。今度こそオレたちを邪魔するものは何もない)

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