いまだけは甘えさせて
とくん、とくん。短く聞こえる鼓動に耳を澄ます。ぐっすりと寝入っているホタルを抱きしめてから、どれくらいが経っただろう。相変わらず目を覚ます気配もない。無防備な寝姿を晒して、ホタルは男というものを知らないな、と思う。襖1枚――今でこそこうして近距離で寝ているが、もし今目を覚まして、こうしてホタルを抱きしめているオレに気づいても、ホタルは何の疑問も抱かず、また眠りに落ちるのだろう。
「ん、……」
夢を見ているのだろうか。何かを話すかのように口元がもごもごと動く。普段は見ることのないホタルの仕種。動きの止まった唇に指先を寄せ、力を入れずになぞる。ふっくらと、自分のそれよりも柔らかい感触が、神経を伝わり脳に響く。
「……はっ」
短く息を吐き、ホタルの腰に腕を回す。情けない、独りよがりな恋心。気持ちを伝えることなど、できるはずがない。オレとホタルは、師匠と弟子。ホタルが望んだその関係を、自ら壊すことなど許されない。それでも、理性は簡単に崩れそうになる。ホタルに包まれ、愛されることは、どれほど心地好いものなのだろう。ホタルの全てに、触れてみたい。
「愛してる、なんて……な」
夜が明ける前に、ホタルが目を覚ます前に、ここを離れなければ。日が上れば、またいつもの関係。それを捨てはしないから、もう少し、このままで。