続く路も花ざかり

 両手を広げて、秋の匂いを思いきり吸い込んだ。少し冷たい空気に、体の中が秋色に変わる気がする。足元に落ちてきた銀杏を拾ってくるくる回せば、不思議と口角が上がるのがわかった。

「もうすっかり秋ですね」
「そうだな」
「銀杏もすごく綺麗」
「この辺の紅葉は今が見ごろだろう。ゆっくりはできないが、少し見ながら歩くか」

 ひらひら舞い散る黄色の中、ウタカタ様の青色を追いかけた。黄色と青色のコントラスト。うん、結構好きかもしれない。

「ウタカタ様って綺麗ですね」
「はぁ?」
「一面の銀杏に負けないくらい、ウタカタ様の着物の青色が映えているんです」
「ホタルは変なところに目をつけるな」
「変じゃないですよ!とっても素敵なことです!」
「十分変だ。こんな綺麗な景色の中、オレの着物を見ているなんて」

 足を止めたウタカタ様が、少し微笑んでこちらを見た。何も言わずに立っていれば、地面に落ちた銀杏を手に取り、しげしげとそれを見つめる。

「ま、ホタルが変なのは今に始まったことじゃないか」
「なっ、ひどいです!」
「怒るなよ。これ、やるから」

 手に持っていた銀杏を私の手に押し込み、ウタカタ様は何事もなかったかのように歩き出す。慌ててウタカタ様を追いかけ、もらった銀杏を目の前に掲げた。

「綺麗な銀杏……、秋の色ですね」
「時々、ホタルが羨ましくなる」
「――?どうしてですか?」
「見るもの聞くもの、全部に感動できて。……ホタルはオレの持っていないものをたくさん持っている」

 そう言ったウタカタ様が泣いて見えたのは、きっと風が運んだ銀杏のせい。銀杏を鞄に閉まったあと、ゆっくりとウタカタ様の手を握った。冷たい手に、少しでもこの体温が移ればいい。

「ウタカタ様だって私の持ってないもの、たくさん持ってますよ」
「ホタル」
「それに憧れたから、私はウタカタ様の弟子になりたかったんです」

 繋いだ手の力を強くすると、ウタカタ様は無言でそれに答えてくれる。小さな面積に共有された体温が、ほかほかと胸の奥まで温かくする。

「だから私、ウタカタ様の弟子になれて、本当に本当に嬉しいんです!」
「……そうか」
「ウタカタ様は、私の自慢のお師匠様で、そして、」
「さっきの話」
「え?」
「ホタル、お前も綺麗だ。この一面の銀杏に負けないくらい、な」

 くるくる回る銀杏が、目の前をひらりと舞った。冷たい秋の匂いが、温かくなった体の中へ入り込む。一面の黄色が、ウタカタ様の青に掻き消された。


Thanks for alkalism