雨と恋と憧れと
破門。その2文字が頭の中を何度も往復する。あんなに怒ったウタカタ様、初めて見た。頬を打たれた時よりもずっと怖い。私はウタカタ様に嫌われてしまったんだ。「うっ……、」
そう考えたら涙が溢れてきた。私はウタカタ様に迷惑をかけてばかり。弱くて泣き虫で、ウタカタ様の足を引っ張ってばかりの駄目弟子。
「ウタカタ……ししょ、う……」
怒鳴られて、あまりの恐さに逃げ出して。ぽつぽつと降り出した雨が、木ノ葉をたどって頬に落ちる。涙と混ざって、ちょっとしょっぱい。
「……やっぱり、破門かしら」
「誰が破門だって?」
「――!ウタカタ様っ!!」
「こんな遠くまで逃げるパワーがあるなら、もっと術の腕を磨け」
そう言ったウタカタ様は、荒い呼吸をしていて。もしかして、ずっと私を探してくれていたのかしら。いつの間にか雨は強くなっていて、ウタカタ様の濡れた髪から雫が幾多も重なって地面に落ちていく。
「ウタカタ様……私……」
「お前に実戦はまだ早い。得体も知れない敵に突っ込んでいって、死んだらどうするんだ」
「……すみません……」
「……揚句の果てにこんなところまで逃げて……」
ウタカタ様が私の腕を引いて、濡れた私の髪を何度も撫でた。冷たい着物の下から伝わる体温に、体中が温かくなる。
「ただでさえお前には苦労してるんだ。これ以上心配をかけるな」
「すみません、ウタカタ……師匠」
「ったく……」
ほんの少し強く抱きしめたとき、「無事で良かった」って聞こえた気がした。でもほんとに小さな声で、雨音に掻き消されてしまって。
「帰るぞ。いつまでもこんな雨の中にいたら風邪をひく」
「ウタカタ様、あの……」
「なんだ」
「いえ……」
ちゃんと聞いてみたかったけど、そんなことしたらせっかくウタカタ様から繋いでくれた手が離れてしまいそうだったから。私は黙ってその手を握り返して、濡れたウタカタ様の袖にきゅっと抱きついた。