壊れた戯曲の続きを貴方と

 今までずっと呼びたくて、夢にまで見た瞬間なのに、いざ呼ぶとなるとなんだか恥ずかしい。シャボン玉を吹く背中が大きく見えて、無意識に見とれちゃって。いけないいけない。やっと、ウタカタ様の弟子になれたんだから。

「ウタカタ、師匠」

 意を決して呼んだ名前に、ウタカタ様…ううん、師匠が振り向いた。振り向いてくれた。嬉しくなって抱きついて、何度も何度も呼び続ける。

「師匠、ウタカタ師匠!」
「1回呼べばわかるぞ、ホタル」
「だって、すごい嬉しくて」

 ウタカタ様が、私の師匠なんだ。私はウタカタ様の弟子なんだ。喜びを噛みしめていたら、ゆっくり頭を撫でられて余計に嬉しくなる。

「はしゃぐのは勝手だか、今日は早く寝ろよ」
「どうしてですか?せっかくなんだから色々とお話を…」
「明日から旅に出る。師匠に弟子が付き添うのは当然だろう?」

 さらりと言われた台詞に、私はどうしたらいいんだろう。嬉しすぎて、幸せすぎて、言葉にできない。

「はい……!どこへでも着いていきます、ウタカタ師匠!!」
「いい子だ」
「じゃあ、私、明日の準備してきますね!」
「あ……ちょっと待て」
「え?」

 立ち上がろうとした体を抱き寄せられ、ウタカタ師匠の腕におさまる。師匠の喉仏が目の前に見えて、それがゆっくり上下した。

「ホタル」
「し、師匠……」
「これからは、ずっと一緒だ」
「あ……」
「もう、独りじゃない」

 師匠の言葉がすごく温かくて、嬉しいはずなのに涙が溢れてきた。子供みたいに声をあげて泣いて、でも師匠は受け止めてくれて。

「し、しょ……ウタカタ、師匠」
「なんだ?ホタル」
「ありがとう、ございます」
「……礼を言うのはオレの方だ」

 袖で涙を拭ってくれて、額に口づけられた。涙のあとを辿るように頬にも唇が触れて、最後に私のそれと重なる。

「師匠……」
「明日から覚悟しておけよ。オレの修行は厳しいからな」
「はい!どんな厳しい修行でもめげません!私は……ウタカタ師匠の、弟子ですから」