青空の見たユメ

 楽しげなホタルの声が聞こえる。麗らかな陽気は、オレたちを優しく包んでいた。

「ホタル」

 名前を呼べば微笑んでこちらを向く。幸せだ、確かにそう感じた。



「…………ホタル」

 いつかのように、ホタルの名前を呼んでみた。返事は返ってこない。当たり前だ、ホタルはもう、

「六尾の人柱力はお前だな」

 巨大な犬と共に現れた黒い影。見覚えのある模様に、ついにこの時がやってきたのかと感じる。

「お前が、暁、か」

 いろんなものから逃げ続けて、やっと見つけた楽園さえ失った。戦う理由もない。シャボン液を地面に撒き散らし、黒い影を睨んだ。

「オレを狩りたいなら、さっさと狩れよ」

 零れる自嘲の笑みと、張り合いのないオレの態度に面を喰う影。
 死ぬのなんてどうってことない。もう何もかも失ってしまったんだ。

「……変わったやつだ。逃げもしないなんて」

 迫り来る巨大な犬の後ろで影が呟いた。ちらりと見えた青空に、いつかの幸せを思い出す。

「ウタカタ様」

 最期まで、オレのことばかり考えていた、馬鹿な女。結局守ってやれなかった。目の前で冷たくなっていくホタルを、抱きしめてやることさえできなかった。

「……じゃあな」

 遠退く意識を手放す瞬間、青空に向かって呟いた。きっともう会うことはないだろう。あの日々は全部夢だったのか。麗らかな陽気は、あの日と変わらないのに。どうして、こんなにも空しいのだろう。