目の前の寝顔は、普段の強さなんて全く想像させないくらいに幼い。木に寄りかかり眠る師匠の前にしゃがみ込んで、あどけないその顔を見つめる。
 自分よりずっと年上の男の人に、“あどけない”なんておかしいのだけど、師匠の寝顔は母親の膝の上で寝る子供のようで、酸いも甘いも噛み分けた元抜け忍とは思えない穏やかさだ。そんな風に眠れるほど、今が師匠にとって安心できる時なのだとわかっているから、私も師匠を起こさないでいる。
 師匠と出会ってからいろんなことがあった。私が闇を抱えていたように、師匠も闇を抱えていたことを知ったのは、つい最近のことだ。何度も追われて、時には命の危険にさらされたけれど、師匠はこうして、私の目の前で生きている。

「ウタカタ師匠、いつも本当にありがとうございます」

 あんなに憧れていた日々だったのに、それが当たり前になるとつい忘れてしまう。この人が、息をしている奇跡。私の傍にいて、師弟として旅を続けている奇跡。
 あどけない表情を壊さないように、顔を師匠の傍に近づける。優しく暖かい匂いが鼻孔に広がり、途端に愛おしさが込み上げてきた。頬にかかる髪を一房掬いあげ、唇を当てる。私の大切なお師匠様。
 唇だけでつないだ声に返事をするように、師匠が小さく寝言を言った。言葉にならないそれがおかしくて、私はもう一度笑みをこぼす。
 目が覚めても、寝顔を見つめていたことは黙っておこう。