これが最高のバッドエンド

 温かく細い首に、冷たい手が触れる。両手に少し力を入れると、その脆さにぞっとした。ふにゃりと柔らかい、ホタルの首。

「…………ホタル、やっぱりオレは……」
「いいんです。私がウタカタ様に頼んでいるんですから」
「けれど、せめてお前だけは人間のままで……!」
「私は、そんな名称よりも、ウタカタ様の傍にいたいです」

 離そうとした手を、ホタルの手が制止する。オレのとは違う、温かい手。生きている、手。

「躊躇なんてしなくていい。一気に、いってください」

 戦争のため、呼び出された命。けれどそれは、元の命とは程遠い、傷つくことも、死ぬことも許されない、武器としての命。
 六尾を抜かれ、人間兵器から逃げ出したオレ。目が覚めてみれば、また新しい兵器としての命。

「オレは、お前を道具になんかしたくない」
「例え道具になろうとも、ウタカタ様の傍にいられるのなら、それでいいんです」
「ホタル!」
「命を粗末にするなって、そう言いたいんですか」
「当たり前だ!お前はあの時だって、自分の命よりも禁術を選んで、里を想って……っ」

 ホタルの唇が、オレのそれに触れた。首にかかっていた手から、力が抜け、真下に力なく落ちる。
 2度と戻らないはずの温もりが、オレに伝わる。

「私はもう、ウタカタ様と離れたくありません」
「ホタル……」
「どんなウタカタ様だって、それがウタカタ様なら、私はウタカタ様と一緒にいたい。けれどそれを許してくれないのなら、私がウタカタ様と同じになるしかないじゃないですか」

 ここでオレが手をくだそうと、ホタルがオレについてこようと、そこに待っているのは同じ 結末バッドエンド。あんなやつに殺られるくらいなら、この手で。

「カブトさんに、ちゃんと頼んでくださいね」
「……ああ……」
「…………それじゃあウタカタ様、……いいえ、ウタカタ師匠。――さようなら」

 奥歯を噛み締めて、ホタルの首に手をかけた。熱い涙が頬を伝って地面に落ちる。
 永遠の命。永遠の道具。永遠の愛。そこに待っているのは苦しみか安らぎか。己の運命を呪いながら、冷たくなったホタルを、全身で抱きしめた。



(また会えましたね、ウタカタ師匠)


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