この声が聞こえますか?

 岩の上に立って、両手を広げて、大きな声で名前を呼んでみた。会いたくて逢いたくてたまらない。この声が少しでも聞こえたのなら、返事を。

「ウタカタ様、ウタカタ様!」

 喉が痛くなって、途切れた名前は涙に変わる。ウタカタ様、ウタカタ様。まだ届いていない。もっと呼ばなきゃ。ウタカタ様に届くくらい、大きな声で。

「ウタカタ様、聞こえてますか?私は、ずっと、ここに居ます。ずっとずっと、ウタカタ様を待ってます!だから、……だから、何年経ってでもいい。必ず、帰ってきてください。約束破るなんて、絶対に許しませんよ!!」

 青空に吸い込まれた言の葉は、木霊となって私のもとに帰ってくる。ウタカタ様、返事くらい、してください。じゃないと私、また泣いてしまいそう。ほんの少しでいいから、またあなたを感じたい。

「……ウタカタ様……」

 風が頬を伝う涙をくすぐる。「ひとりぼっちじゃないよ」そう言って私の体を暖かく包み込む。どこか似ている温もり。優しいのに、ずっと一緒にはいられないの。

「ずっと大好きです。ずっとずっと、私にはウタカタ様だけ」

 気まぐれな優しさを贈る風なら、この想いもウタカタ様に届けてくれるかしら。
 私たちが望んだ“いつか”はもう訪れないから、また新しい“いつか”を。

「……私がそっちにいったら、ちゃんと抱きしめてくださいね。どんなにしわしわになってても、笑っちゃ嫌ですよ」

 流れる涙は相変わらず。でもきっと、強くなれるから。

 空を見上げて、ほら、私、ちゃんと笑えてる。無理矢理なんかじゃない。ウタカタ様のこと、絶対に忘れません。だからずっと、見ててください。ウタカタ様から教えてもらったこと、ちゃんと伝えていきます。

「ありがとうございます。ウタカタ師匠」

 暖かい風が花びらを散らせた。大丈夫。きっと伝わっているはず。だって私とウタカタ様は、お互いを想い大切にする、師弟だもの。