君色マイナスイオン
血霧の里と呼ばれた時代。里の兵器として扱われた体。師匠を殺め、抜け出した里。ウタカタ様と旅をするようになって、少しずつ明らかになる過去。時に辛そうな表情をする師匠に、いつかの自分を重ねる。耐えきれなくてそっと手を握れば、優しそうな瞳をして笑ってくれた。
「霧隠れの里に生まれて良かったと思ったことはないが…師匠と過ごした日々は楽しかった。あんな別れかただったが、親の温もりを知らないオレに、師匠はいろんなことを教えてくれたんだ。厳しかったけど、それ以上に優しい師匠だったよ」
切なげな表情をしながら師匠のことを話すウタカタ様に、なんだか悲しくなる。ウタカタ様は「ホタルのお陰で師匠を嫌いにならずにすんだ」なんて言ってくれたけど、でもやっぱり、ウタカタ様は師匠に会いたいんだろうな。独りぼっちの寂しさは、痛いほどよくわかるもの。
「ウタカタ様」
「なんだ?」
「私で良かったら、思う存分甘えてくださいね。私はウタカタ様の弟子ですけど……でもウタカタ様のお母さんと思ってくださってもかまいませんから!!」
握った両手を肩の前にかかげ、前のめりになってウタカタ様に言った。一瞬ぽかんとしたウタカタ様は、そのまま珍しいくらいに大笑いをする。
「はははっ、何を言うかと思えば……」
「な、どうして笑うんですか!」
「お前がオレの母親…想像してみろ。かなり面白いぞ」
「…………」
ウタカタ様が私の子供で、抱っこしてあやしたり、ミルクをあげたり。夜は隣で子守唄を歌って寝かしつけて、私はそれに安堵しながら眠りにつく……。
「確かに、違和感は、ありますけど……」
「だろ?逆ならともかくお前に甘えるなんてそんな……」
「でも!師匠が辛く悲しいとき、それを労るのが弟子の勤め。だからウタカタ様が疲れたときは……私に甘えて、私が癒してあげたいんです」
ウタカタ様には2度と、辛い想いをさせたくない。それが私の弟子としての、精一杯の願い。
「……甘えるって言ってもな……」
「大丈夫です!私だって本気になれば、ウタカタ様のひとりやふたり、抱っこできます!」
「抱っこって、お前な……」
「私が泣き止まないときは、いつもお爺様や遁兵衛がしてくれました」
「オレは泣いていないし、そもそも体の大きさの比率が違うだろ」
指でおでこを小突かれて、口の端で笑いながらウタカタ様は私に背を向けた。私はいつも本気なのに、ウタカタ様は冗談にしかとってくれない。師匠の、イジワル。
「師匠!私は本気なんですよ!!」
「わかったわかった。オレが泣いたら、そのときは抱いてあやしてもらうから」
「その半笑い、やめてくださいっ」
「ははっ。……抱いてあやしてもらわなくても、オレは十分、お前に癒されてるんだよ。ホタル」