sleep me?

 弟子は師匠の教えを聞くもの。だからこうやって、ウタカタ様の言った巻物を読んでいるのに、その師匠が弟子の邪魔をするなんて、一体どういうことなんだろう。

「ウタカタ様、いい加減どいてください」
「ん……」
「ウタカタ様のせいで、巻物が読めないんですけど」
「そうか……」

 何を言ってもどかないウタカタ様に、口から漏れる盛大なため息。私よりも大きな背中がくっついて、私の体を前のめりに倒す。そのせいで距離が近くなった巻物に顔をしかめながら、背中にくっついたままのウタカタ様をどかそうともがいた。

「どいてください、ウタカタ様」
「んー……」
「いくらウタカタ様でも怒りますよ!」
「ああ……。……ホタル」
「はい?」
「…………」

 やっとのことでどいたウタカタ様を振り返ると、こちらを向いたウタカタ様が腰に腕を回してくる。驚いて逃げようとしても、がっちりと拘束された体は動こうとしない。もう1度大きなため息をついて、真横にあるウタカタ様の顔を睨みつける。

「ウタカタ様!」
「ん、」
「ん、じゃないです!私は勉強がしたいんです。それに、ウタカタ様が言ったんじゃないですか。この巻物を全部読めって」
「ああ……それか……。それならもういい」
「え?」
「巻物はもういいから、オレに付き合え」
「付き合えって……きゃ!」

 腰に腕を回されたまま横倒しにされ、ウタカタ様の顔が項に埋まる。そこにかかる吐息に体を震わせると、満足そうにウタカタ様が微笑んだ。

「やっぱりこれだよな」
「何が、ですか」
「昼寝にはこの抱き枕が最適ってことだよ」
「人を物扱いしないでください!それと、もうちょっと離れて……」
「嫌だ。誰が離すかよ」

 余計に強くなった拘束と、耳に触れる唇に、頬がかあっと熱くなった。その様子にウタカタ様が微笑む気配がして、なんだか癪にさわる。

「もう、ウタカタ様ったら……」
「ん?」
「ウタカタ様がこんなに甘えん坊だなんて思いませんでした」
「甘えてなんかいない。ホタルが愛しいから、離したくないだけだ」
「っ……」
「おやすみ、ホタル」

 言い逃げならぬ言い眠り。後ろから聞こえる寝息に、本日3度目のため息。横に倒れた衝撃で折れ曲がった巻物に眉を寄せながらも、甘えん坊な師匠を恨むこともできない。

「……これも一種の修業ですか?ウタカタ師匠」

 返事の代わりに聞こえてきた寝言に微笑んで、体を捩らせてウタカタ様の胸に頬をつけた。

「おやすみなさい、ウタカタ様」

 目が覚めたら、今までのぶん、きっちり修業をつけてもらうんだから。心の中でそう呟きながら、瞼をゆっくりと閉じた。