戦場バスルーム
「ウタカタ様、今日こそ修業をつけてもらいます!」「…………」
唖然。今のオレは地球上のどんな生物より間抜けな顔をしているだろう。開いた口が塞がらない。塞ぐ気力すら失われる。
「ウタカタ様?」
「……お前、ここをどこだと思っている」
「え?……お風呂、ですよね?」
ああそうか。わかっててその態度なんだな。上等。
数分前までのオレは、珍しく早く覚めた目に促されるがままに、優雅にシャワーを浴びて、優雅に風呂に浸かっていたんだ。…いや、現在進行形で浸かっているんだ。そんな場所に、入ってくるなんて。
「さすがのウタカタ様も、お風呂に入っていては逃げられませんよね!」
「…………」
ため息をつく気力もなく、ただ風呂場の入り口に得意げな顔で立つホタルを見つめた。オレが匿われている家……つまりホタルの家は、でかい。それに比例するように風呂も豪華で、小さい村の銭湯くらいはあるんじゃないかと思う。それが幸い。ホタルの場所からは、オレの裸なんて見えないだろう。ホタルをここからどかせば、とりあえずは逃げられる。
「わかった。お前には降参だ。風呂から上がったら修業をつけてやるから、そこをどけ」
「本当ですか!?」
ああ、本当本当。だから素直にそこをどいて……
「でもウタカタ様って、そうやっていつも嘘をおつきになるから……信用できません」
ぎくり。漫画のように肩が強張る。その様子を見たホタルが、ムッとした表情をしながらこちらに近づいてきた。
「もう!やっぱり嘘だったんですね!!」
「お、おい、あまりこっちに来ては……」
「今日という今日は絶対に逃がしませんよ!」
待て待て待て待て!!いくら広い風呂場だって、そんなに近づいたらヤバいだろ!しかもこの湯、入浴剤なんて入ってないぞ?無色透明だぞ?ホタル、お前その意味がわかってんのか?
「く、来るな!!」
「きゃあ!ウタカタ様、お湯なんてかけないで……やあ!」
バシャバシャ、バシャバシャ。無我夢中でホタルに湯をかけ、これ以上近づかれないように睨みつける。気がつけばホタルは全身ずぶ濡れで、服は張り付き髪は濡れて、……まあ、その、かなり妖艶な姿になっていた。
「ウタカタ様……ひどいです」
「いや……お前が風呂場になんか入ってくるから、」
「……こうなったら意地でもここから動きません。ウタカタ様、絶対に貴方の弟子にしてもらいます!」
なんでそーなる!?盛大にツッコミをいれたい口も、どんどん近づいてくるホタルにぱくぱくと開閉を繰り返すのみ。
「わ、悪かったよ。本当に、修業をつけてやるから……」
「信用できません。私を弟子と認めてくれるまで、私はここから離れません」
「オレは弟子なんて……あ、でも考える。考え直してみるから、とりあえずこっちに来るな!!」